ステルスマーケティングの規制

ステルスマーケティングについて

消費者庁がステルスマーケティングの規制に乗り出すという報道がありました。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE260PX0W2A221C2000000/(2022年12月22日日本経済新聞ウェブ版・2023年1月9日最終閲覧)

令和4年12月28日付けの「ステルスマーケティングに関する検討会報告書」(以下、「報告書」とします。)によれば、「これまでに、あなたはステルスマーケティングを広告主から依頼された経験はありますか」という質問に対して、41%のインフルエンサーが受けたことがあると回答しています(下図)。さらにこれに対して約45%がその依頼の一部又は全部に応じたということです。

報告書10頁

EUや米国などでは既にステルスマーケティングは規制されており、我が国でも規制の必要があるのではないかとの議論がされていました。

報告書25頁では、ステルスマーケティングは、広告であると認識しない点で消費者に誤認を与える行為であり、広告であることを隠すことにより好感度が上がるなどして低品質商品の需要が増え、高品質商品の購買機会が失われるとされています。つまり、ステルスマーケティングにより消費者に損失が発生し、長期的には広告全般に対する信頼・信用を損ねることになるということです。

ステルスマーケティングに対する規制のない状況では、ステルスマーケティングを行ったほうが広告主に有利になりますし、現実にも頻繁にその種の行為は行われているようです。報告書では、早急な規制が必要と結論づけており、予防的・機動的に規制するための指定告示制度を利用するべきとしています。

想定される規制の内容

指定告示とは

以下では、報告書の内容から想定される規制の内容をまとめます。あくまで報告書の内容をまとめただけですので、現実の規制内容は異なる可能性があります。必ず現実の規制を事前にご確認くださるようお願いします。

消費者契約法では、禁止される不当表示として以下の3つを挙げています。

  1. 優良誤認表示(5条1号)
  2. 有利誤認表示(5条2号)
  3. 内閣総理大臣が指定する不当表示(5条3号、指定告示)

指定告示というのは5条3号の不当表示を指定するものです。法律ではないので、国会の決議を必要としません。したがいまして、早期・柔軟に対応することができます。指定告示としては現在6つの不当表示が定められていますが、ステルスマーケティングに関する告示が新たに追加されるということになります。

告示案

報告書は、次のような告示案を示しています。

事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの。

報告書37頁

簡単に言えば、一般消費者が広告であるかどうかを判別するのが困難であることという内容になります。これだけでは、非常に抽象的ですから、消費者庁は運用基準を定めるとしています。報告書には運用基準の方向性についても説明されています。

運用基準の方向性

運用基準の方向性はかなり細かい内容になりますし、実際の運用基準と齟齬する可能性もありますので、気になった箇所についてのみ簡単にご紹介します。

まず、告示案の「事業者が‥行う表示」の解釈ですが、事業者が「表示内容の決定に関与した」表示も含まれることになります。事業者が第三者にSNS、レビュー、アフィリエイトプログラム、プラットフォーム上の口コミなどに投稿してもらう場合になります。

「表示内容の決定に関与した」というのは次のような場面になります(東京高判平成20年5月23日(平成19年(行ケ)第5号)参照)。

  • 「自ら若しくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者」
  • 「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」
  • 「他の事業者にその決定を委ねた事業者」

以下のような場合も含まれることになりそうです。

「事業者が第三者(著名人やインフルエンサー)に対して、当該事業者の商品又は役務について表示してもらうことを目的に、当該商品又は当該役務を無償で提供するなどの結果として、当該第三者が当該事業者の目的に沿う表示を行うなど、当該第三者の自主的な意思による表示とは客観的に認められない場合。」

報告書39頁

また、少し話がそれますが、次のような場面も規制の対象になりそうです。

「事業者が仲介事業者に依頼して、プラットフォーム上の口コミ投稿を通じて、当該事業者の競合事業者の商品又は役務について、自らの商品又は役務と比較した低い評価を表示させる場合」

報告書39頁

逆に、インフルエンサー等が自主的な意思による表示と客観的に認められる場合、つまり、事業者の関与がない場合として挙げられている例は以下のようなものです。

出店者が購入者に対しレビュー機能によるレビュー投稿に対する謝礼として次回割引クーポン等を配布する場合であっても、事業者(当該事業者から委託を受けた仲介事業者を含む。)と購入者との間で表示内容について一切の情報のやり取りが行われておらず、購入者が自らの自主的な意思に基づき投稿したと客観的に認められる場合。

報告書41頁

事業者から、表示内容を決定できる程度の関係性にない第三者に対し、表示を目的とした無償提供ではなく、単なるプレゼントとして商品等の贈呈を行った結果、当該第三者が自主的な意思に基づいて表示を行ったと客観的に認められる場合。

報告書41頁

また、告示案の「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であるもの」については、事業者自身のウェブサイトやSNSアカウントで発信することや、「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」といった文言を使用することで事業者の表示であることを明らかにすること方法があげられています(報告書43頁)。

今後は広告表示であることが分かるように明確な表示をすることが求められるでしょう。

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