フリーランスの保護とフリーランスガイドライン(2)

前回はフリーランスの保護に際しての問題点をみてみました。現在のところ、我が国ではフリーランスガイドラインにより独占禁止法や下請法が適用されうる行為を整理しているという状況です。前回の内容は以下のリンクを参照してください。なお、ナンバリングは前回の続きになっています。

5. フリーランスガイドラインの運用(ソフトローでのアプローチ)

そこで、ここからはフリーランスガイドライン(以下、「GL」とします。)の内容を簡単にご紹介します。今のところ、フリーランス新法は制定されていませんので、これが現在の到達点ということになります。

ここでは、『「フリーランス」とは法令上の用語ではなく、定義は様々であるが、本ガイドラインにおける「フリーランス」とは、実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者を指すこととする。」』と定義しています(前掲GL2頁)。

 そのうえで、フリーランスに対しての独占禁止法、下請法、労働関係法令の適用関係を整理しています。下図にあるように、事業者とフリーランス全般との取引には独占禁止法や下請法を広く適用することが可能とされています(なお、消費者との取引は対象にはなりません)。ただ、フリーランスとして業務を行っていても、『実質的に発注事業者の指揮命令を受けて仕事に従事していると判断される場合など、現行法上「雇用」に該当する場合には、労働関係法令が適用される』ということです。つまり、実質的に労働者と評価できるのであれば、労働基準法をはじめとする労働関係法令が適用されるのです。そして、この場合には、原則として独占禁止法や下請法が適用されることはありません。

(前掲GL2頁)

6. 独占禁止法・下請法と労働関係法令の適用関係

また、独占禁止法や下請法は、「問題となる不利益の程度、行為の広がり等を考慮して、個別の事案ごとに判断する」としています。「①発注事業者が多数のフリーランスに対して組織的に不利益を与える場合、②特定のフリーランスに対してしか不利益を与えていないときであっても、その不利益の程度が強い、又はその行為を放置すれば他に波及するおそれがある場合には」、これらの法令が適用される可能性が高くなります(前掲GL3頁)。なお、下請法は独占禁止法の特別法の関係になりますので、原則として、下請法を優先適用します。

順番としては、(1) 実質的な労働者か否かが判断され、(2) 労働者でないとするとまず下請法の適用を検討し、 (3) その後に独占禁止法の適用を考えることになりそうです。

発注側の事業者として注意すべきは、実質的に労働者であると評価されないようにすることでしょう。契約書の名前だけを「業務委託契約」にしていても意味はなく、その実体が重要ですのでご注意ください。労働者性の判断については、GLは特に新しいことは述べておらず、従前からよく用いられる「労働基準法の「労働者」の判断基準について」(労働省労働基準法研究会)を引用しています。念のため、以下に判断フローをお示ししますので、参考にしてください。

(1)「使用従属性」に関する判断基準
 ①「指揮監督下の労働」であること
  a.仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
  b.業務遂行上の指揮監督の有無
  c.拘束性の有無
  d.代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)
 ②「報酬の労務対償性」があること
(2)「労働者性」の判断を補強する要素
 ①事業者性の有無
 ②専属性の程度

「労働基準法の「労働者」の判断基準について」(労働省労働基準法研究会)
(前掲GL18頁)

7. フリーランスガイドラインの具体的な内容

 次に、GLの具体的な内容ですが、最初に強調されているのは、書面を交付することです。口約束で受発注をしていると、どうしても簡単に対価を切り下げたり、受け取りを拒否したりということになりがちです。このような行為の未然防止のために書面を交付してください、ということになります。問題となる行為類型は以下のとおりです。

独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法上問題となる行為類型 

(1)報酬の支払遅延 
(2)報酬の減額 
(3)著しく低い報酬の一方的な決定 
(4)やり直しの要請 
(5)一方的な発注取消し 
(6)役務の成果物に係る権利の一方的な取扱い 
(7)役務の成果物の受領拒否 
(8)役務の成果物の返品 
(10)不当な経済上の利益の提供要請 
(11)合理的に必要な範囲を超えた秘密保持義務等の一方的な設定 
(12)その他取引条件の一方的な設定・変更・実施 (前掲GL3-4頁)

7.1. インボイス制度に関するQ&Aを参考として

ここで全てを紹介することはできませんが、インボイス制度に関するQ&Aを例として(2)報酬の減額について説明します。フリーランスが適格請求書発行事業者ではない免税事業者であるとして、以下のように、発注者(買手)がフリーランスに対して、「免税事業者であることを理由にして、消費税相当額の一部又は全部を支払わない行為は」、「下請代金の減額」としいうことになるのです。これはインボイスに関する設例ですが、そうでない場合でも、当初設定した対価を一方的に支払わないようにするとGLに挙げられる下請法違反になるのです。

(中小企業庁ウェブサイト「下請法 【別紙1】免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A(令和4年3月8日更新) 参考 インボイス制度後の免税事業者との取引に係る下請法等の考え方(令和4年3月8日更新)2022年11月7日最終閲覧」

事業者の中にはこのようなことはしない、という方もいらっしゃるとは思います。ただ、最初の対価の設定のときから、免税事業者なので消費税相当額を支払わないという一方的な態度をとることも買いたたき(GLのいう「著しく低い報酬の一方的な決定 」)として下請法上問題になることがあります。もっとも、このようなケースは下請法違反のリスクがあるというだけで、必ず、下請法違反になるわけではありません。十分に協議をして合理的に対価を定めたのかということが大事なのです。フリーランス(下請事業者)も仕入れ等に際して消費税を負担しているので、少なくとも、その部分は対価として支払われるようにすべきという考えになります。


GLの触りだけ簡単にご紹介しました。詳細はGLを読んでいただくしかないのですが、まずは下請法の知識を確認しておくとよいかもしれません。下請法に関しては、適正取引支援サイト(https://tekitorisupport.go.jp/#fair_transaction)でeラーニングなどを受講することもできます。次回では、フリーランス新法の制定が求められていた理由や、なおも残されるであろう問題点について、ご紹介します。

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