岡山経済同友会の企業法務・会計研修会で「生成AIと著作権の基礎」についてお話させていただきました

2023年10月11日(水)に岡山経済同友会の「企業法務・会計研修会」が開かれました。 

こちらで、私は「生成AIと著作権の基礎」と題してのお話をさせていただきました。生成AIについては、個人情報の漏洩、営業秘密の漏洩、著作権侵害などのさまざまな法的リスクが指摘されていますが、ここでは著作権の侵害を中心にご説明しました。参考になるかもしれませんので、概要をお示します。


1. AI生成物の利用段階の問題

 まず、学習に用いた著作物と類似した画像や文章が意図せず生成されてしまった場合に著作権侵害になるのかという問題があります。著作権侵害の要件のうち「依拠性」があるのかが争点です。現在のところ、依拠性を肯定する(侵害の方向)に考える見解が多いように思われます。したがいまして、生成された画像などを利用する前に、画像検索などで既存の著作物に類似していないか調査して、著作権侵害のリスクを低減させるべきでしょう。

 また、AI生成物の利用段階のもう一つの問題として、AI生成物に著作権は発生するかという議論もされています。ただ、こちらについては、アメリカ著作権局で人間の寄与が必要とされるなど、著作物性を否定する見解がほとんどと思われます。

2. AIの学習段階の問題

 次に、AIの学習段階で著作物を複製等するのは著作権侵害にならないかという議論もあります。日本では、思想・感情の享受を目的としない利用であれば、原則として、権利制限規定に該当するとされています。この場合、著作権者の許諾なく著作物を利用できることになります。つまり、AIの学習段階での著作権侵害のリスクは小さいといえるでしょう。ただ、例えば、利用規約などで利用の制限をかけている場合にどうなるのかといった問題は残ります。

3. 各国の対応など

 その他にもAIの利用に際してはさまざまな課題があるとされます。例えば、偽コンテンツの生成・拡散、ハルシネーション(幻覚)、バイアスの増幅・拡大、人間の倫理観との整合などがあげられます。

 このような課題への対応として、EUはAI規則を施行する予定です。アメリカは有力各社の協力を取り付けています。EUがハードローであるのに対して、アメリカはソフトローで対応するということでしょう。AIについてはG7でも議論されており、AI開発者を対象とする指針の骨子などが策定される予定ということです。ここでは、アメリカで有力各社に協力要請がなされた内容が盛り込まれるようです。ただ、EUは法的責任をもたせるべきと述べているようで、まだ議論はありそうです。

 日本政府も事業者向けの指針を作成すると報道されたています。生成AIを利用する企業も責任を負うことなどが盛り込まれるということです。

 生成AIはビジネスにも利活用できるでしょうが、著作権侵害などの一定の責任を負う場合があることを想定しておかなければなりません。リスク低減策の一環として従業員教育なども必要になってくるでしょう。(概要おわり)


 生成AIについては、皆さま大変興味をもたれているようで、多数の皆さまにご参加いただくことができました。生成AIに関しては今後もさまざまな法的議論・課題が生まれてくると思われます。今後も研鑽を積んで、皆さまに有益な情報を提供できるように努力したいと考えております。

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