引用は「リツイート」?「スクリーンショット」?

著作権法をご存知の方には言うまでもありませんが、適法な「引用」に対しては、著作権の権利行使が制限されます。最近、ツイッターでの引用の方法をめぐって少し議論があります。

知財高判令和4年11月2日[発信者情報開示請求](令和4(ネ)10044号)は、著作権侵害などを理由とした発信者情報開示請求事件ですが、ここで知財高裁は、ツイートに際して(批判の対象とする)別ツイートのスクリーンショットを添付したことを適法な引用に当たると判断しました。スクリーンショットを添付することに特に問題ないように思う方もいらっしゃると思います。

「引用」により著作物の利用が適法になる要件については、若干議論があるところですが、一般的には、①公表要件、②引用要件、③公正慣行要件、④正当範囲要件が必要と言われています(島並良=上野達弘=横山久芳『著作権法入門[第3版]』192頁、有斐閣(2021))。このうち、ここで問題となっているのは③の公正慣行要件(公正な慣行に合致すること)です。

東京地判令和3年12月10日[発信者情報開示請求](令和3年(ワ)第15819号)

実は、ツイッターでの他人のツイートの引用方法について判断した裁判例として上記東京地裁のものがあります。判決は、ツイッターの規約ではツイートの複製等は引用ツイートという方法によるものと規定されているので、スクリーンショット画像の添付は公正な慣行に合致しないとしました。

本件各投稿は,いずれも原告各投稿のスクリーンショットを画像として添付しているところ,…ツイッターの規約は,ツイッター上のコンテンツの複製,修正,これに基づく二次的著作物の作成,配信等をする場合には,ツイッターが提供するインターフェース及び手順を使用しなければならない旨規定し,ツイッターは,他人のコンテンツを引用する手順として,引用ツイートという方法を設けていることが認められる。そうすると,本件各投稿は,上記規約の規定にかかわらず,上記手順を使用することなく,スクリーンショットの方法で原告各投稿を複製した上ツイッターに掲載していることが認められる。そのため,本件各投稿は,上記規約に違反するものと認めるのが相当であり,本件各投稿において原告各投稿を引用して利用することが,公正な慣行に合致するものと認めることはできない。

上掲令和3年東京地判

知財高判令和4年11月2日[発信者情報開示請求](令和4(ネ)10044号)

前述の知財高判でも、控訴人は、「引用リツイートではなくスクリーンショットによることは、ツ
イッター社の方針に反するものであって、公正な慣行に反すると主張」していました。これに対して、知財高裁は、スクリーンショットによる引用であっても公正な慣行に反することはないと判断したのです。

しかしながら、そもそもツイッターの運営者の方針によって直ちに引用の適法性が左右されるものではない上、スクリーンショットの投稿がツイッターの利用規約に違反するなどの事情はうかがえない…。そして、批評対象となったツイートを示す手段として引用リツイートのみによったのでは、元のツイートが変更されたり削除された場合には、引用リツイートにおいて表示される内容も変更されたり削除されることから、読者をして、批評の妥当性を検討することができなくなるおそれがあるところ、スクリーンショットを添付することで、このような場合を回避することができる。…そうすると、スクリーンショットにより引用をすることは、批評という引用の目的に照らし必要性があるというべきであり、その余の本件に顕れた事情に照らしても公正な慣行に反するとはいえない…。

前掲令和4年知財高判

コメント

このように、東京地裁と知財高裁では判断が異なるように見えます。私個人としては、知財高裁の判断のほうが説得力があるように思いますが、いかがでしょうか。

もっとも、知財高裁ではプロフィール画像を著作物としてその侵害の有無が問題とされているのに対して、東京地裁ではツイートの文章を著作物として侵害の有無が争われています。したがいまして、両者の判断が完全に食い違っているわけではないという見方もあるかもしれません。とはいえ、知財高裁で元ツイートの変更・削除により批評対象が変わってしまうことを問題しており、このことはツイートの文章自体でも同じことでしょうから、やはり東京地裁とは異なる判断を示したとみてよいと思います。

補足

なお、知財高裁の判決は、著作権侵害のみでなく、プロバイダ責任法による発信者情報開示請求事件において、侵害情報であるツイートの投稿がされたログイン以外のログイン時のIPアドレスに係る情報が「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるのか、被控訴人が「開示関係役務提供者」に該当するのかが争点となっており、興味深い判断が示されています。なお、判決文は裁判所ウェブサイトから確認できます。

https://www.ip.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail?id=5848

 

関連記事

  1. ⾳楽教室事件についての雑感など
  2. システムエンジニアリング岡山の生成AIセミナーの講師を務めさせて…
  3. 岡山経済同友会の企業法務・会計研修会で「生成AIと著作権の基礎」…
  4. 令和3年著作権法改正による放送番組のインターネット上での同時配信…
  5. ステルスマーケティングの規制
  6. 令和3年著作権法改正による図書館関係の権利制限規定の見直し

最近の記事

PAGE TOP