日本版アミカスブリーフ

第三者意見募集制度のはじめての採用

特許法が改正されて,特許権侵害訴訟において外部の専門化などの意見を集めることができるようになりました(特許法105条の2の11)。この制度が初めて利用されることになったとの報道がありました(日本経済新聞ウェブサイト「動画配信巡る特許権訴訟「第三者意見募集」初採用」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE303AX0Q2A930C2000000/ 2022年10月3日最終閲覧)。

特許権等侵害訴訟における第三者意見の募集

この制度は,IoT分野のように標準必須特許などが関わる場面では,確定判決の効力の及ぶ当事者以外の第三者に対しても判決が事実上の大きな影響を及ぼすという問題意識から立法されたものです。これまでにも,知財高判平成26年5月16日判例時報2224号146頁[アップルv.サムスン]において意見募集がされたことはありますが,制度として行われたものではありませんでした。

訴訟の当事者は意見募集の申立をすることができ,裁判所は他の当事者の意見を聞いたうえで,証拠収集の困難性や判決の第三者に対する影響の程度などを総合考慮して採否を決定します。意見書は誰が出しても構いません。第三者に意見書を提出するよう働きかけることもできるとされています(対価の供与も禁止されてはいません)。

今回の事案の問題点

このたび裁判所が意見を求めているのは,コメント配信システム(特許第6526304号)という特許発明に関して,「サーバと複数の端末装置とを構成要素とする「システム」の発明において,当該サーバが日本国外で作り出され,存在する場合,発明の実施行為である「生産」(特許法2条3項1号)に該当し得ると考えるべきか。」というものです(知財高裁ウェブサイト「募集要項」https://www.ip.courts.go.jp/tetuduki/daisanshaiken/index.html 2022年10月3日最終閲覧)。

問題となっているシステムは,動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバがアメリカに存在し,ユーザー端末が日本国内に存在しており,これらが構成要素となり「コメント配信システム」を構成するというものでした。これらが組み合わさることにより,コメント配信システムが「生産」されるという主張のようですが,原審は,実施行為としての「生産」にあたるためには,特許発明の構成要件のすべてを満たすものが日本国内で新たに作り出されることが必要と述べています。また,物の構成要素の大部分が日本国内において作り出されるといった基準で生産の範囲を画することも相当ではないとしています。このようにして,原審において原告の請求は棄却されています(東京地判令和4年3月24日令和元年(ワ)第25152号裁判所ウェブサイト)。

ここでの論点は,特許発明の実施行為としての「生産」は,属地主義の原則から,そのすべての行為が日本国内で行われていなければならないのかということです。本件では,アメリカでその一部が,日本でその残りの部分が行われていることになります。属地主義の原則からするとすべての行為が日本国内でなされていなければ,日本国の特許法の「実施行為」にはならないはずです。

とはいえ,単純な物の発明ではなく,インターネットを使ったシステムの発明となると,容易に国境を超えることができますので,すべての行為が日本国内でなされなければならないとすると,いくらでも尻抜けできてしまうのではないかという疑問があることは容易に理解できると思います。実質的に日本国内ですべての実施行為が行われたと同視すべき場合もあるのではないかとの見解も強いようです。

別件訴訟での判断

もっとも,上記の訴訟と同じ当事者間では別の訴訟も係属していました。こちらは別の発明が問題になったものですが,原告の請求が認められています(知財高判令和4年7月20日平成30年(ネ)第10077号裁判所ウェブサイト)。論点も比較的近いように思われます。なお,勝訴した原告のウェブサイトも参考にしていただけると内容が分かりやすいと思います(株式会社ドワンゴウェブサイトhttps://dwango.co.jp/news/6211166288216064/ 2022年10月3日最終閲覧)。

十分な検討はできていませんが,別件訴訟はプログラム(物の発明)の電気通信回線を通じての提供が問題となっています。裁判所は,「特許発明の実施行為につき,形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、前記の属地主義には反しないと解される。」としています。そのほかの行為については,「被控訴人ら各プログラムは、被控訴人ら各装置の生産にのみ用いられる物であると認めるのが相当」であるとして,間接侵害により侵害を認めているようです。

さいごに

意見募集がされたのは,このような判決が存在することも理由でしょう。属地主義を厳密に貫徹することによる弊害があろうことは確かかもしれませんが,どのような判断基準が適切なのかは非常に難しいように思います。「実質的かつ全体的」では基準として機能しないでしょう(なお,前掲知財高判はさらに下位の考慮要素を挙げて判断しています)。また,「電気通信回線を通じて提供」と「生産」とでは概念が異なりますので,同様に考えてよいのかという問題もあります。これらの点については,今後も激しい議論がかわされていくことになるでしょう。

関連記事

  1. 機械学会の『シナリオで学ぶ産学共同研究開発契約の勘所』のパネリス…
  2. 機械学会の市民向けイベントのお手伝い

最近の記事

PAGE TOP