令和3年著作権法改正による図書館関係の権利制限規定の見直し
令和3年の著作権法の改正により「図書館関係の権利制限規定の見直し」が行われます。図書館に関しては,調査研究の機会を保証する目的から著作権を制限する規定があるのですが,このたびの新型コロナウィルス感染症の拡大を機に,インターネットを通じた図書館資料へのアクセスを可能にしようというものです(図書館の休館等によりニーズが顕在化したと言われています)。
次の2つの改正がなされます。①国立国会図書館にある絶版等資料の個人向けのインターネット送信(改正著作権法31条6-11項(以下,改正著作権法は省略します),②各図書館等による図書館資料の公衆送信(同条2-5項)。
なお,①については,令和4年5月19日からサービス開始とのプレスリリースが出されています(下記引用参照)。②に関しては公布から2年以内で政令で定める日とされており来年以降に開始されることになると思われます。
「2022年2月1日 「個人向けデジタル化資料送信サービス」の開始について(令和4年5月19日予定)」
https://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2021/220201_01.html
国立国会図書館は、「国立国会図書館のデジタル化資料の個人送信に関する合意文書」(令和3年12月3日)に基づき、「個人向けデジタル化資料送信サービス」(略称:個人送信)を令和4年5月19日から新たに開始します。…
①国立国会図書館にある絶版等資料の個人向けのインターネット送信
文字通り国立国会図書館が行うことになります。国立国会図書館は,現在でも,公共の図書館等に対して絶版等資料のデータを送信していますので,利用者は図書館等に足を運べばそれらの資料を閲覧等することはできたのです。ただ,図書館が感染症対策などで休館しているようなときには,図書館等を利用できません。改正後は,利用者は自宅で資料を閲覧することができるようになるわけです。
ここで対象となるのは,「特定絶版等資料」(31条10-11項)とされています。絶版等資料(31条1項3号)から近々復刻する蓋然性が高いものを除くイメージです。言うまでもなく,事業者の利益を害することのないようにするためです。
また,公衆送信(インターネット送信)にあたっては,データのダウンロードを防止抑止するための措置を講ずることになっています(31条8項)。これも明らかだと思いますが,ダウンロードして資料が流通するようなことがないようにするためです。
受信者は自ら利用するために必要と認められる限度で複製できるとされていますので,いわゆる私的利用の範囲でのプリントアウトは許容されることになります(31条9項1号)。
②図書館等による図書館資料の公衆送信
こちらは特定図書館等により行われることになります(31条3項)。要するに,メールで著作物のコピーを送信してくれるサービスなのですが,権利者の利益を守るため一定の要件を満たした「特定図書館等」のみが行うことができます。なお,こちらは絶版等資料には限りません。
メールなどでの送信にあたっては,不当な拡散を防止・抑止するための措置等をとることとされています(31条2項2号)。また,電子配信サービスとの競合などもありえますので,著作権者の利益を不当に害することのなる場合には利用することができなくなる見込みです(31条2項但書)。
なお,送信が認められるのは,原則として,著作物の一部になります(現在の図書館の複写サービスも同様です)。
また,特定図書館等は権利者に対して補償金を支払うことになっています(31条5項)。この補償金は最終的には利用者が負担することになる見込みです。①との違いに注意してください。なお,受信者でプリントアウトできることは同様です(31条4項)。以下のイメージが分かりやすいと思います。