令和3年著作権法改正による放送番組のインターネット上での同時配信等に係る権利処理の円滑化

近時はテレビ放送などがインターネットを通じて同時配信されることも多くなりました。このような時代の変化にあわせて,著作権法でもインターネット同時配信に関する規定が整備されています。このようなインターネット同時配信に際しては,例えば,出演者(実演家)などから許諾を得ることができないという理由で,その部分だけを見えないようにするような措置もとれらていたようです(「フタかぶせ」と言うようです)。そこで,より円滑に実演などの利用ができるようにする規定も整備されています。

放送同時配信等及び放送同時配信等事業者の定義規定

まず,放送同時配信等及び放送同時配信等事業者を定義する規定を設けています。「放送」は,決められた時間にのみされるものであり,放送法により内容の公益性が求められており,免許・設備などが必要であることから,著作権法では「自動公衆送信」(要するに,通常のインターネットの送信です)よりも簡便な権利処理ですむように設計されていました。

そこで,放送のインターネット同時配信についても,放送と同じようなものに制限した規定を設けています。つまり,放送同時配信は,①原則として放送から1週間以内に配信されること,②内容を変更しないこと,③ダウンロードの防止・抑止措置が講じられていることが要件となります(2条1項9号の7)。

また,放送事業者等が業務の公益性から特別な著作物の利用が認められていることに鑑みて,放送同時配信等事業者を人的関係・資本関係において放送事業者等と密接な関係を有する事業者に限定しています(2条1項9号の8)。

許諾推定規定の創設など

このようにして定義された放送同時配信については,放送とほぼ同等の扱いが認められています。例えば,放送の場合の著作権の権利制限規定をすべて放送同時配信等にも拡充しています(34条1項,38条3項,39条1項など)。また,著作権者に利用許諾を求めたけれども,うまく協議が成立しなかったなどの場合には放送同時配信等事業者も裁定制度を利用することができます(68条,103条)。

これらに加えて,許諾推定規定が創設されています(63条5項,103条)。これは,放送の許諾を行った場合は,許諾の際に別段の意思表示をした場合を除いて,放送同時配信等についても許諾をしたものと推定するというものです。ただし,これは「特定放送事業者等」という以下の放送事業者に対する許諾の場合に限られます。

特定放送事業者等は,放送同時配信等を行っていて,かつ,その番組の名称などの文化庁長官を公表している放送事業者等のことです。著作権者は,このような特定放送事業者等に自らの著作物の利用を許諾する以上は,その著作物が放送同時配信等されることを知り得る状況にあったということが推定の根拠ということになります。

映像実演の利用円滑化

また,実演の利用も円滑にできるように改正されました。これまで実演家からある番組の放送に関しての許諾を得ていれば,その番組を再放送することについての許諾は不要とされていました(93条の2)。しかし,放送同時配信等については,このような規定はありませんでした。

初回の放送について許諾をしていれば,再放送の許諾をしないことは考えにくいことですし,公共性の高い放送番組では実演の円滑な利用を図る必要もあります。

技術的に細かい事項は省略しますが,①初回の放送同時配信等の許諾を得ておけば,再放送時にスムーズに実演家の許諾が得られない場合でも,放送同時配信等もできるようになりました(93条の3)。また,②例えば,インターネットでの配信などがされていない古い放送番組で,初回の放送同時配信等の許諾が存在しない場合で,実演家と連絡がつかないようなときでも,予め補償金を支払うことで再放送の同時配信等に放送実演を使用できることになっています(94条)。

レコード・レコード実演の利用円滑化

このほか,レコードやレコード実演も円滑に利用できるようにも改正されました。放送に関しては,音楽CDなどに録音された実演について,実演家(歌手)の権利が及ばないものとされていました(92条2項2号)。放送事業者等は実演家に二次使用料を支払うことで,その音楽CDを放送に使うことができたのです(95条1項)。なお,レコード製作者に対しても同じように規定されています(97条1項)(以下も同様です)。

しかし,最近行われるようになった放送同時配信については,このような規定はありませんでした。そのため,実演家やレコード製作者に対して送信可能化権(92条の2,96条の2)について事前に許諾を得る必要があったのです。

そこで,放送同時配信等においても補償金を支払うことでレコード実演・レコードを利用することができるようになりました(94条の3,96条の3)。ただし,著作権等管理事業者(ex. JASRAQ)による管理が行われているものや,文化庁長官が定める連絡先等の情報を公表している場合は,この限りではありません。先ほどの映像実演の場合もそうですが,このような場合には,放送同時配信事業者等は正式に許諾を得ることが難しくはないからです。

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