フリーランスの保護について(1)

近時は、フリーランスと呼ばれる働きたかをする方も増えてきました。フリーランス保護のためにフリーランス新法が制定されるとの話題もありました。第210回臨時会にフリーランス新法は提出されませんでしたが、現政権の「新しい資本主義」の方針からすれば、今後における立法の可能性もあるでしょう。そこで、以下ではフリーランスの保護の論点と新法の制定に関して、3回に分けてご説明します。

1. 働き方の変化とフリーランスの増加

ご存知の通り、フリーランスと称される働き方が増えてきています。フリーランスの定義がはっきりしていませんので、フリーランスの数ははっきりしませんが、「従業員を雇わない、フリーランスの形態で仕事をされる方が我が国でも462万人と増加している」とされています。(内閣官房「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」17頁(令和4年6月)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2022.pdf)

このようなフリーランスの増加傾向の一因として、情報通信技術の発達をあげることができます。 ギグワーカー,クラウドワーカーといった単語を耳にすることも多くなりました。フリーランスの増加については賛否両論あるでしょうが、肯定的な文脈で捉えるものも多くあるようです。例えば、神戸大学の大内伸哉教授は、「労働者が企業内で担ってきた作業は、AIやロボット(事務系ロボットであるRPAも含む)により代替され、人間に残されるのは、機械では対応しにくい非定型的な作業が中心となる。非定型的な作業での生産性は、イノベーションを生みだす創造性と強く関係するため、こうした能力を持つ人材(プロ人材)への需要が高まる。プロ人材が創造的な能力を発揮するには、雇用労働者のように時間的、場所的に拘束され、指揮監督を受ける環境は適さない。つまり今後は、ICT(情報通信技術)を活用したテレワークなどによって、特定の企業に帰属せず、フリーワーカーとして働くことを希望するプロ人材が増えると予想される。」と述べておられます(大内伸哉「「フリーワーカー」に対する法政策はどうあるべきか」NIRAオピニオンペーパーNo.44,4頁,NIRA総研(2019))。

公式な統計などでの裏付けがあるわけではないようですが、フリーランスが増えているのは明らかと思われます。フリーランスに関しては前向きに捉えた上で安心して働けるような環境を整備することが肝要なのかもしれません。政府も前述の資料でフリーランスに活躍してもらうための環境整備としての新法制定を挙げているところです。

2. フリーランスとしての働き方

とはいえ、フリーランスとなると、経済的に安定しない場合が多いことは確かです。確かに、会社から指示を受けたり、時間的・場所的に拘束されたりすることはなくなります。ただ、次のように、労働関係法の適用はなく、社会保障もほとんど受けられません。

  • 賃金(最低賃金法) → 報酬(下請法の買いたたき規制)
  • 厚生年金 → 国民年金
  • 協会けんぽ等 → 国民健康保険
  • 雇用保険 → なし
  • 労働組合 → なし
  • 育児介護休業法など → なし
  • 仕事で負傷又は疾病 → なし(ただし、労災保険への特別加入の可能性はある)
  • 解雇予告・解雇制限 → なし

3. フリーランスの保護の論点

つまり、現状の日本の法律では、「イギリス、ドイツ等とは異なり、個別的労働関係法における拡張概念を認めていないため、(1)アの判断基準に該当しなければ、基本的には、労働関係法令の保護を受けられないこととなる」のです(雇用類似の働き方に関する検討会「報告書」7頁(2018))。

なお、ここに書かれているように諸外国では事情が異なります。例えば、イギリスでウーバーの運転手をworkerと判断したり(なお、イギリスでは、被用者(employee),労働者(worker)及び自営業者(self-employed)に整理されており、日本で言うところの一人親方のような立場の方が労働者という扱いで一定の保護が受けられるようです)、フランスの破毀院判決としてウーバーの運転手について労働者と判断したりする事例があるということです (濱口桂一郎「フリーランスの労働法政策」1頁 労働政策研究・研修機構(2022))。

4. 我が国での考え方の整理

ただ、フリーランスは労働法による保護を受けることはできませんが、独占禁止法や下請法の適用を受けることはあります。この考え方を整理したのが、内閣官房・公取委・中企庁・厚労省による「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」 です。こちらは2021年3月に公表されています。参考までに、これまでのフリーランス等に関しての動きを下に示します。ここから分かるように、2018年ころからフリーランスに関する議論のテンポがあがっているのが分かると思います。インターネットによりどこでも仕事ができるようになってきたことが大きいのかもしれません。また、我が国における終身雇用制度がここにきて急速に崩れつつあることを示唆しているのかもしれません。次回では、フリーランスガイドラインについて概観したいと思います。

1970年   家内労働法
1985年   「労働基準法の「労働者」の判断基準について」(労働省労働基準法研究会) 
2000年   在宅ワークガイドライン(厚生労働省)
2011年   「労働組合法上の労働者性の判断基準」厚生労働省労働関係法研究会
2018年   自営型テレワークガイドライン(在宅ワークガイドラインの改訂)
2020年12月 雇用類似の働き方論点整理検討会 取りまとめ
2021年3月  「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」 内閣官房・公取委・中企庁・厚労省
2021年4月  芸能関係作業従事者,アニメーション制作作業従事者,柔道整復師,高年法改正により導入された創業支援等措置に基づき事業を行う人を労災保険特別加入の対象に
2021年9月  ITフードデリバリーサービスなども労災保険特別加入の対象に
2021年11月 「未来を切り拓く「新しい資本主義」とその起動に向けて」 → フリーランス新法の制定へ?

関連記事

  1. フリーランスの保護とフリーランスガイドライン(2)
  2. 不利な契約などの事前チェック 原料価格等の高騰に対しての下請法での対応
  3. フリーランス新法に関する研修会で講師をさせていただきました
  4. ビジネスと人権
  5. フリーランス保護の論点

最近の記事

PAGE TOP